記憶の汀

~大学図書館司書のとりとめのない日々のこと~

鷹(俳句)

こんにちは、双海です。

今日は鷹俳句会の『鷹』を読んでの記事です。

こちらも作者名はメモがなく、わからず・・・。

共感する句、ユーモアあふれる句、発想に驚くような句。

 

クロッカスさみしさに音なかりけり

昼顔の駅に線路の終りけり

たんぽぽの絮それぞれの未来向く

薔薇咲くや人に触れたき雨の午後

過去忘れ未来想はずチューリップ

挿木して自分に作る未来かな

永き日や海見て何をするでなし

初花や袖もて余す女学生

手鏡に朱き唇春遅し

桜貝波音消えてゐたりけり

遠浅のごとき恋なり冬帽子

夕桜ゆるしてくれぬなら帰る

朝寝して雨音遠く聴いてをり

行間にさよならの声春の雪

断片の記憶つながる桜かな

父からの手紙大切牡丹咲く

夏草や夕風の立つところまで

浴衣着て妻湖のごと静かなり

鈴蘭の校章光る五月かな

恋せしは夢二の女月見草

遠花火京むらさきの帯を解く

トーストと紅茶の朝や麦の秋

籐椅子や時間ありすぎても寂し

捨てられぬ夢また一つ夏帽子

香水やふいに話題を逸らされし

けふ逢へる気がしてゐたよ星涼し

ふつくらと十八歳の浴衣かな

冬の朝あっけらかんと初潮あり

シクラメンひとりの時を大事にす

小春日の音楽室のにほひかな

空色のブラウス選ぶ四月かな

仕事なく致し方なく朝寝かな

人柄は語尾にあらはれ藍浴衣

父母の柔らかに居る帰省かな

遠ざかる日傘ひかりとなりにけり

風鈴や行き先告げぬ置手紙

忘れ貝汀に戻す晩夏かな

故人みなわれに優しく紫苑咲く

音ほどは吸はぬ掃除機土用明

物捨つるための早起き秋隣

子を宿し月のひかりに髪を梳く

露の夜の白きノートに対しをり

月光のこんなところに階段が

絶筆の楽譜ピアノに秋の声

秋めくや譜面をめくる手元さへ

月光やささめきやまぬ水の面

秋うららフレアスカート翻る

押し花にせし露草を栞とす

鯛焼の袋の湿り十三夜

速達の切手貼り足す師走かな

秋澄むやおのおのにある午後の椅子

スカートを広げて受くる林檎かな

浜菊やひかり集めて海静か

髪束ね妻に戻りぬ萩の花

 

 

可惜夜に逝きし娘よ嶺桜

>この一句にはコメントをさせていただきたい。

まず、可惜〔あたら〕という言葉が生きていることに私は感動した。幼い娘さんを亡くしたのだろう。一人娘だったのかもしれない。作者の思いが、嶺桜という一語でくっきりと刻印されている。私は心が震えた。そこに冗漫な説明は不要である。一篇の小説にも勝るとも劣らない、俳句の力を見る思いがした。