記憶の汀

~大学図書館司書のとりとめのない日々のこと~

『塔』2021年5月号から②「さよならのために準備は怠らない」

みなさまこんにちは。

5月号の後半に参ります。

 

ワークライフバランスに遠く働けば独身?などと囁かれおり(大引幾子)

>いろいろな個人・家族のかたちがある。結婚するもよし、しないもよし。仕事に重きを置くのもよし、家庭を重視するのもよし。善悪の問題ではなく、自分がどのように生きていきたいか。そんなことをつらつらと思った。

 

目立たぬも身近に小さき進化あり切手がシールになりたることも(金田和子)

>便利かどうかという視点でいえば、やはり便利になったなぁと思う。Edyやクレジットカード決済に対応している自動販売機も“進化”だ。そういえば、この前ニュースで日清カップヌードルのシールのフタが廃止されると聞いた。これも“進化”だろう。

 

お手紙をあなたに書いていいですか言葉であなたとつながっていたい(中島奈美)

>素直な独白がひかる一首である。

 

引き出しにしまつて省みぬ短歌(うた)もわが半生の軌跡なるべし(葵 しづか)

>短歌を自分の中でどのように位置づけるか。私は短歌を日記のようなものだと捉えている(今のところは)。

 

海岸の思わぬところに残る波どこまでも何思う一人で(小山竹治)

>海を眺めながら物思いに耽る。私もそういう時間が欲しい。

 

目覚めれば夫の笑顔が見えるゆえ朝の光を愛していたり(沼波明美

>沼波さんの歌に毎回注目している。おだやかでやさしい、まさしく光のような歌の数々。今号の他の作品:「花開くよう静かでいること 湖の心を保ち水の雫になること」

 

よろこびが孕むかなしみ 影のごと たとえば死なせてしまった小鳥(山川仁帆)

>後半の七七の象徴性。まっすぐ胸に迫る黒い影。

 

終点で降りないひとのゆきさきは知らない 雨は降り止んでいる(紫野 春)

>物語性のある歌で不思議な魅力を感じる。初読時は、眠っていて終点に着いたことに気が付かなくて降りないのだと思ったが、そのように限定する必要はないのかもしれないと考えた。現実的、常識的な捉え方をするのではなく、自分の意志で降りない人がいるという風に解釈すると、その先の想像がふくらむ。歌が物語の扉をひらいて、読者の想像の世界へと誘(いざな)うのである。大丈夫、雨はもう止んでいる。

 

国会で居眠る人の賃金のことを言う人茸工場で働く(高原さやか)

>茸工場というところにこの歌のおかしみがある。国会議員は定数を減らしてもよい、という意見もときどき耳にする。そういえば、若手官僚の退職が増加しているという報道を見たことがある。国会議員の質問通告が遅いとか、高圧的だとか、いろいろと問題があるそうだ。参議院のあり方は見直してもよいのではないかと思う。

 

持物を極力減らし日々過ごすそうすることで心穏やか(鈴木佑子)

>同感した。部屋のモノが減ると視界がすっきりして頭と心がクリアになる。掃除も楽になる。モノが減るとお金が貯まりやすくなるようだ。物欲がなくなるからだろう。

 

さよならのために準備は怠らない 白いハンカチバッグにしまう(安倍光恵)

>感想を考えていたら、なんとなく五七五七七になってしまった。即興なので出来はさておき、ちょうど短歌のかたちになったので置いておこう。「思ひ出を白紙に戻すといふ意味を込めて選んだ白いハンカチ」(拙歌)

 

半世紀前からここに在りし樹に「伐採します」と張り紙のあり(石井暁子)

>“殺処分”という言葉は、動物にしか使われないと思うと、ちょっと不思議な感じがする。植物もいきものなのに。動物も植物も、人間の都合で育てられたり、殺されてしまったりする。かたや人間には“殺処分”はない。たとえコロナに罹患したとしても。当たり前のことだけれど、ふと立ち止まって考えてみると不思議なことでもある。みな命であることに変わりはないのに。

 

おもむろに電話をすれば「ういっす」とくれる返事に支えられてる(瀧川和麿)

>私にもこういう気の置けない同期がいて、楽しくも頼もしい存在だと感じている。