記憶の汀

~大学図書館司書のとりとめのない日々のこと~

知音(俳句)

みなさまこんにちは、双海です。

 

今日は知音俳句会の『知音』で読んだ忘れたくない句をメモしていきます。

なお、作者は手元に控えていなかったのでわかりません(涙)

では、諸先輩方に敬意を表して・・・。

 

素通りの人を見てゐる寒さかな

冬ぬくしワインの昏き紅揺れて

冬桜見てゐて声をかけらるる

かな書きの奉書はやさし薄紅梅

果たされぬままの約束寒椿

もう誰を愛してゐるのかも朧

やんはりと誘ひ断はり梅月夜

立春のこの空色を着てみたく

水よりも空は水色初桜

夜桜の思ひつめたる白さかな

髪ほどき少女立夏の風の中

エリーゼのために一輪紅き薔薇

失ひし言葉探しの五月かな

春ショールはらりと鎖骨美しき

衣更レモンの香り通り過ぐ

わがままに生きて日傘のフリルかな

麦秋や振り向かぬ背のいつまでも

学生の来ぬキャンパスに夏来る

桐咲くやあの頃志高く

何もせぬことに疲れて金魚見る

薔薇の香や遠まなざしの少女像

薔薇咲いて白には白の香りあり

涼風や湖畔に開く文庫本

十薬の花の純白朝の雨

井の中を知らずバケツの蛙の子

妻くれし手編みのセーターやはらかく

登場の科白もなくてなめくぢり

初夏やすとんと綿のワンピース

風よりも雨に零るる白薔薇〔しろさうび〕

街薄暑スカートの膝美しく

目瞑ればアリア聞こゆる薔薇深紅

紅の薔薇咲き満ちてより不安

花火見て橋の袂に別れけり

毒のなき言葉寂しきゼリーかな

空蝉に何か気配といふ気配

噴水の向かうに見つけたる背中

紫陽花や後ろ姿を見失ひ

薄幸の色に昼顔咲いてゐる

どこまでも瑠璃色深く泉湧く

すれ違ふ少女ハミング秋隣

気づかぬか気づかぬふりか白日傘

秋思ふと手放す本と残す本

新涼や書架にリルケの詩集古り

瑠璃色の涙をひとつ蛍草

花の名を知る嬉しさよ花野ゆく

明日はまだ帰りたくない星月夜

のぞきこむ少女を映し水澄める

秋の蝶とまるスカート枯葉色

これからの生き方をふと今日の秋

秋桜ひらく掌ひらくごと