記憶の汀

~大学図書館司書のとりとめのない日々のこと~

司書:図書館情報資源特論(レポート)〔司書10〕

こんにちは!

今日は私が受講した年度の「図書館情報資源特論」レポートについて書いていきます。

末尾の諸注意・免責事項も必ずお読みください。

 

<設題>

灰色文献とは何か、灰色文献の定義や意義、特徴について記述せよ。また、灰色文献といわれる具体的な資料名を挙げて、その資料の特徴についても説明せよ。

 

<レポート>

本稿では、所与の設題に沿って記述する。

1.灰色文献の定義・意義・特性について

 灰色文献とは、『最新 図書館用語大辞典』によると、「流通経路が不明確で、通常の出版物のルートにのらず、入手が難しい資料の総称」であるとし、「国家機密文書、公開不可等の規制を受けている情報(black)に対して、誰にでも入手方法が明らかにされて入手が容易である情報(white)と対比され、両者の中間に位置づけられるところから『gray literature』といわれる」と定義している【註1】。灰色文献の種類としては、政府刊行物地方自治体が作成した資料・民間のシンクタンク等が作成した報告書・学位論文・会議録などがある。

また、現在はインターネットで公開されている文献も多くなり、灰色文献の定義も変化しつつあるという指摘がある【註2】。この観点から灰色文献の定義を再考する際には、池田(2012)の論文が有効である。池田は、現在最も一般的とされる灰色文献の定義とは、「紙や電子フォーマットで、政府、大学、ビジネス、産業のあらゆるレベルにおいて生み出されるもので、商業出版社によってコントロールされない」「すなわち、主たる活動が出版を本業としない組織によってコントロールされている」文献としている【註3】。これは、灰色文献国際会議の場で議論が行われたニューヨーク・ルクセンブルク定義である。そしてこの定義によると、灰色文献の種類は100を超えるという。

なお、インターネットで公開される文献について補足をすれば、原理的にはネット回線さえあれば閲覧可能であるため、モノとしての物理的な入手困難な度合に関しては、従来の紙媒体の文献に比べて大幅に低下したと言える。しかし、インターネット上の情報源を知らなければ、そもそも存在しない文献となってしまい、結果としてアクセスは不可能となる。また、情報が氾濫している今日、サーチエンジンを使って必要とする文献を的確に検索することはそれほど容易なことではない。よって、このような困難さがあるゆえに、インターネット上に公開されていれば灰色文献ではないと一概に言い切ることはできないだろう。このように一般の図書館利用者にとってまだまだアクセスが難しく、政府刊行物自治体作成の資料など重要な一次資料を含んでいる灰色文献について、情報公開や知る権利の保障および民主主義の確立という観点からも、図書館が積極的に広く収集して提供することは大きな意義を有するものと考える。

 

2.灰色文献の具体的な資料の特徴について

 ここからは先に述べた灰色文献の具体的な資料の特徴について述べる。灰色文献として以下の資料がある。

政府刊行物

  国の立法・行政・司法の諸機関が公に刊行した資料を指す。形態としては、図書・雑誌・パンフレットなどの紙資料の他に、パッケージ系のCD-ROMやDVD、さらにはインターネット上のデジタル資料(例:日本統計年鑑)がある。政府刊行物は、政府の方針や行動、また国全体の動向を知るための貴重な一次資料であり、先述のとおり広く国民の目に触れるようにするために図書館資料として提供する必要がある。

地方自治体が作成した資料

 地方自治体による資料も政府刊行物と同様で、近年はインターネット上のデジタル資料として閲覧が可能な場合が多い。しかし、過去の資料は紙資料であるため、通常は従来どおり図書館等にて閲覧することになる。たとえば、筆者が居住する相模原市では、市が行っている各種調査(人口・防災・福祉・健康・教育など)の結果をインターネット上に公開している【註4】。

③民間のシンクタンク、調査研究機関などが作成・発行したプロジェクトレポートや市場調査報告書

 これらの資料は、市場に流通させることを必ずしも目的とはしていないため、インターネット上に公開されていたとしても、アクセスが容易とは言えないだろう。たとえば、独立行政法人 国際協力機構では、過去の国際開発ジャーナル誌や月刊石垣誌に掲載された事例・記事、調査報告書などを閲覧することができる【註5】。

④学位論文

 学位論文は本来流通を目的としていないため、資料価値が非常に高い反面、一般的には入手が困難である。

なお、従来、博士論文は国立国会図書館へ送付していたが、平成25年の学位規則改正により、学術機関リポジトリとしてインターネット上に公開することとなった。原則として全文を公開するが、著作権等の問題により公開を見送るケースもある【註6】。

⑤会議録

 会議録とは、学会などの会議の正式な記録をまとめたもので、一般的には参加者のみに配布されるため入手が困難である。近年はインターネット上の公開が進んでおり、たとえば国会における委員会会議録は国会会議録検索システムで全文検索が可能となっている【註7】。しかし、学会の会議録などは近年、印刷刊行されることのない情報を会員のみ対象としたインターネットで流すこともあり、速報性はますます高まっているが、一般にはさらに入手が困難になっている場合もある【註8】。

 

<参考箇所の明示>

註1:図書館用語辞典編集委員会編『最新 図書館用語大辞典』p456-p457

註2:日本図書館協会用語委員会編『図書館用語集 四訂版』p249

註3:池田貴儀著「問題提起:灰色文献定義の再考」p50-p54

註4:相模原市ホームページ「統計・調査資料」

註5:独立行政法人 国際協力機構ホームページ「事例・参考情報」

註6:国立国会図書館ホームページ「国内博士論文の収集」

註7:国会会議録検索システム

註8:図書館用語辞典編集委員会編『最新 図書館用語大辞典』p40

 

<参考文献など> ※出版年順(ホームページを除く)

図書館用語辞典編集委員会編『最新 図書館用語大辞典』柏書房株式会社・2004年

高山正也、平野英俊編『図書館情報資源概論』樹村房・2012年

日本図書館協会用語委員会編『図書館用語集 四訂版』日本図書館協会・2013年

日本図書館情報学会 用語辞典編集委員会編『図書館情報学用語辞典 第4版』丸善株式会社・2013年

池田貴儀著「問題提起:灰色文献定義の再考」・『情報の科学と技術』所収・情報科学技術協会・2012年

URL: https://jopss.jaea.go.jp/pdfdata/AA2011-0802.pdf(最終アクセス:2019年3月21日)。

相模原市ホームページ「統計・調査資料」

URL:http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/shisei/investigation/index.html(最終アクセス:2019年3月21日)

独立行政法人 国際協力機構ホームページ「事例・参考情報」

URL:https://www.jica.go.jp/priv_partner/case/index.html(最終アクセス:2019年3月21日)

国立国会図書館ホームページ「国内博士論文の収集」URL:https://www.ndl.go.jp/jp/collect/hakuron/index.html(最終アクセス:2019年3月21日)

国会会議録検索システムURL:http://kokkai.ndl.go.jp/(最終アクセス:2019年3月21日)

 

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