記憶の汀

~大学図書館司書のとりとめのない日々のこと~

司書:図書館概論(科目終末試験)〔司書15〕

こんにちは!

今日は私が受講した年度の「図書館概論」科目終末試験について書いていきます。

末尾の諸注意・免責事項も必ずお読みください。

 

<設題>

「中小都市における公共図書館の運営」(中小レポート)が刊行され、どのような影響があったのか説明しなさい。

 

<答案>

1.はじめに

 本稿では、「中小都市における公共図書館の運営」(以下、「中小レポート」)について、その概要と影響について述べる。

 

2.「中小レポート」の概要について

 戦後、1950年に図書館法が公布され、具体的な図書館奉仕が明示された。しかし、1950年代の公共図書館界では、依然として戦前からの館内閲覧・整理作業および保存中心の図書館活動が継続されていた。そのような状況下、日本図書館協会は1960年から3年間、国庫補助を受けて人口5~20万人の中小都市に設置された71の図書館の実態を調査し、中小公共図書館の方向性や目標を示そうと試みた。そして、この成果が1963年に「中小レポート」として刊行された。

 「中小レポート」では、中小公共図書館の現状を以下のように指摘した。

・図書館の数が少なく、1市に1館しかない。

・職員が少なく、それ以上に資料費が少ない。

・比較的よい図書館と、貧弱な図書館との開きが大きい。

・図書館の規模は市の規模の大小は関係がない。

・中小公共図書館と府県立図書館の機能が分けられていない。

そして、公共図書館の本質的な機能とは、「資料を求めるあらゆる人々やグループに対して、効果的にかつ無料で提供するとともに、住民の資料要求を増大させる」こととした。さらに、公共図書館の最も優先すべき機能は貸出であり、資料の館内利用のほかに、館外利用の重要性を指摘した。館外奉仕の方法としては、分館・貸出文庫・移動図書館の3つを推奨した。「中小レポート」では、地域住民にとって身近な市区町村の図書館こそ、図書館奉仕に重要な役割を果たし、その意義を持つと結論を述べている。

 

3.「中小レポート」の影響について

 ここからは、「中小レポート」が与えた影響について述べる。

 

3-1.日野市立図書館の誕生

 1965年9月、日野市で図書館サービスが開始された。図書館という建物を持たずに、1台の移動図書館「ひまわり号」によって市内をくまなく巡回して個人貸出を行った。この移動図書館は、半年間で65,537冊の貸出実績というめざましい成果を挙げた。このように「館外奉仕の重視」・「貸出重視」という方針を実践した日野の成果は、「中小レポート」の正しさを立証するものであり、日野の試みはまさしく「中小レポート」の影響を受けたものであった。そして、この事例は図書館界に刺激を与え、日本図書館協会は日野の実践を普遍化すべく、公共図書館振興プロジェクトを企画し、先進的図書館の事例を報告する研究会等を開催した。そして、1970年に『市民の図書館』としてまとめられた。

 

3-2.『市民の図書館』の刊行

 日本図書館協会によって刊行された『市民の図書館』では、当面の最重要目標として次の事項を挙げている。

・市民の求める図書を自由に気楽に貸し出すこと

・児童の読書要求にこたえ、徹底して児童サービスをすること

・あらゆる人々に図書を貸出し、図書館を市民の身近に置くために、全域にサービス網をはりめぐらすこと

そして、最重要目標の「貸出、児童サービス、全域サービス、この3つを重点にすることは、(中略)図書館の基礎を固め絶望的に見える現状を脱して、発展への足場を固めることである」と記載している。同書では、「中小レポート」が提示した図書館の方向性を実践しているいくつかの図書館の活動を報告しており、戦前の図書館奉仕から脱却していく際に「中小レポート」がひとつの大きな起点になっていることが理解される。

 

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